【事件激情】ネバダたん─“史上最も可愛い殺人者”(2)佐世保小6同級生殺人事件

noriaky1112010-03-25

Chapter2 二人少女


<<contents
(1)<<



*軍港の町はその年、ピリピリしていた


長崎県佐世保市。旧海軍の軍港として栄え、今も陸・海自衛隊と米海軍第七艦隊の基地がある。人口25万人。大人の6割が基地にかかわる仕事をしている。軍隊と共生する町。

県都長崎市とは経済圏も別。むしろ佐賀県へと抜ける鉄道や道路の方がきっちりつくられていて、小さいながら県内で独自の文化を築いていた。ジャパネットたかたはここが本社だし、造船大手のSSKもある。村上龍の出身地で「69」はご存じの通りこの佐世保が舞台だ。なによりかの佐世保バーガーの町でもある。ハウステンボスはこの前年に経営難で破綻し、会社更生法による立て直しを始めていた。

2004年当時、イラク派兵の最中で、佐世保の基地もアルカーイダのテロを警戒してピリピリした厳戒態勢が続いていた。街路を兵士や軍用車が行き来するのはこの町では日常的とはいえ、そのピリピリ感はおそらく町の空気にも伝染していた。
また長崎市で前年に中1男子が幼児を突き落として殺害する事件があったばかりで、県内の行政や教育機関があわてて非行防止に取り組んでいるところだった。

そんな中、6月1日の惨劇にむけて歯車はゆっくりと回り出していた。


*2人の少女は出逢った。不幸にも


今もネットにはおびただしいネバダたん画像が氾濫している。ネバダたんはネット界の「黒いアイドル」だ。もはや本人ともかけ離れたイメージが、裏っぽいアイコンと化している。
真偽さだかでない画像の中には、「おそらく本物」といわれるものもある(あの集合写真の少女ですら間違いなく当人であると確認されたわけではない)。でもそんなことを突き止めるのは目的ではないのでここではしない。

さて、のちに被害者と加害者の立場となる2人が友だちになったのは5年生の春からのようだ。

「ミタちゃん」の父親は毎日新聞の記者。2年前に佐世保支局長として赴任してきた。3年前に妻を亡くし、男男女3人の父子家庭。末っ子がミタちゃんだ。
4年生の春に転校してきたミタちゃんはすぐクラスになじんでリーダー的存在になった。大柄で明るく活発、人を笑わせる性格で、「ミタちゃん」「ミタッチ」とみんなから好かれていた。担任からも「ミタちゃんなら大丈夫」と信頼されるほどだった。

5年生の初め頃、クラスの女子があることで対立して二つに割れた。そのときミタちゃんと同じ“陣営”になったのがネバダたん」だった。外交的なミタちゃんと大人しめの美人さんの性格は対照的だったが、お互いひかれたのか急速に親しくなり、交換日記を始めるようになった。


*問題児ではなかった「物静かで優しい女の子」


ネバダの「将来の夢は漫画家」。友だちと遊ぶよりもひとりで絵を描いてる方が好きな女の子だった(そして本人も嘆く通り絵は…上手くなかった)。でも孤立していたのではなく友だちは何人もいて、そつなく自分の位置をクラス内にキープしていた。

自宅は山の上にあり、バスの本数も少なくて不便。両親、姉、祖母の三世代5人家族。父親は会社員だったが病気で倒れ、自営業になって家にいた。

「物静かで優しい」。というのが先生からみたネバダの印象だった。先生の手伝いもよくする子で成績もよくパソコン得意。なかなか優等生だ。「ただ、みんながいる所では明るいが、ひとりだと暗いことがあった」。ネバダ本人も自己紹介で「性格は裏と表があるらしい…」とおどけ気味に書いている。

「はっきりノーと言えない、自己主張ができない。でもしっかり者の頑張り屋」。これは彼女の両親の見立て。でも放任してるわけじゃなく家族でよく会話もしていた。虐待系や過干渉だったわけでもない。

事件後まもなくHPは削除されたが、ネットゆえに彼女の言葉はコピペ増殖して今も電子の海を漂っている。それによると、人と接するのがちょっと苦手。バトル・ロワイアル呪怨韓国ホラー「ボイス」が好きだったり、魔術に興味があったりもするが、行き過ぎるほどではない。
自然破壊を悲しんだり戦争や差別に反対したり、世界に一つだけの花風の詩を書いて照れ隠しで悪ぶってみたり、この年頃の文系少女特有のちょっと背伸びしてて健全で無邪気で前向き。文章も幼いながらそれなりに構築されて「異常」の兆候はみられない。

よくいる普通の女の子の顔だ。6月1日12時40分の血まみれの姿なんて少しも浮かばない。

ミタちゃんもネバダも決して問題児ではなく「よい子」だったのだ。

そうして2人が仲良くなったちょうどその頃、彼女たちの5年1組はおかしくなった──。



──学習ルームの惨劇まであと1年。 >>(3)

▽参考文献