【事件激情】借りてきた「絶望」。─《捌》(終)

ゴスロリカップルと殺女子高生


メリーランド・マーダー・ケース

  
海の向こうでゴスロリカップ事件に似た事件が起きた。
  
2008年米国メリーランド州の町で47歳のおっさん刺し殺された。
逮捕されたのはおっさんの娘@15歳とその男友だち@17歳だ。
  
娘@15歳は、人気の学園吸血鬼ラノベ『トワイライト』にハマっていた。「わたしはヴァンパイアよ」とほざき、学園内で吸血鬼同好会まで結成。服はもっちろんゴス。お互いリスカして血をすすり合ったりして喜んでいた。
  
米国ではヴァンパイアが根強く人気なんである。『トワイライト』も映画化されて大ヒットした。日本人にはピンとこないかもしれんけど、欧米人は吸血鬼に萌えるらしい。  
娘@15歳が遅刻したり万引きしたりで学校も手を焼き、父親@47歳が厳しく娘を監視することにした。

が、不幸なことに、父親@47歳『トワイライト』の敵役と同姓同名の「ビリー・ブラック」だった。
  
娘@15歳
「パパは吸血鬼人生を邪魔する悪者よ!名前も同じだし!(バカだ)
と、吸血仲間たちに殺人を頼みまくるがさすがにみんな尻込み。けっきょくSNSの吸血鬼コミュで知り合った男友だち@17歳「まかせとけ」と快諾(引き受けんなよバカ)
悪者(パパだっての)退治して(殺して)しまったんである。


“魔性のバカ女”
  
そんな4歳児以下な理屈がリアル世界で通じるはずもなく、2人は逮捕
  
娘@15歳は、未成年扱いされず第一級殺人で有罪となった。
  

彼氏かばう、桃寿しゃべる

  
さて、2003年大阪2005年静岡、2つの事件の犯人たちも、夢の世界から引き戻され、己のやらかした罪と向き合うことになった。
  
ところでいくつか載せた桃寿サイト画面(黒地)はミラーサイトで、削除されたオリジナルとは見た目が実は違う。どっかにないかと探してたら一部見つかったので貼っておいたりする。

オリジ画面は白地でずいぶん雰囲気も違うんである。
  
逮捕されたゴスロリ彼氏桃寿はそれぞれ取り調べを受けた。
はじめ、2人とも家族に悪いことをしたという反省の言葉はなかった。
  
彼氏何もかも嫌になって死のうと思ったけれど、一人で死ぬのが怖くて家族を道連れにしようとした」「どうせ死ぬなら人を殺してみたかった。家族ならやりやすいからと話した。
  
だが一緒に捕まった桃寿のことは「逃避行に誘っただけだ」と、男気のつもりなのか、庇うような曖昧なことばかりだった。
  
が、彼氏の男気もむなしく、桃寿本人は事件との関わりをぺらぺらと隠すこともなくしゃべりまくっていた。
  
冗舌な桃寿とは反対に、彼氏の取り調べは荒れた。供述書を見せられた彼氏は、
「僕の言ったことをちっとも分かってない!」
激しく号泣。なぜそこで泣く。しかも号泣なぜ。
彼氏はとにかく自分の言葉が正しく伝わることが何よりも大切なようだった。実の母親を殺し父親と弟を殺しかけた事実よりも大事らしい。
  
素に戻ったのはやはり桃寿が先で、「いけないことをしました」としおらしく弁護士に言うようになった。「学校に戻りたい」とも(うーん悪いが無理だな)。初めて反省らしい言葉も出た。

彼氏はといえば相変わらずで、計画的な犯行だとか動機については話すようになったが、反省してる様子はかけらもない。
  
事件が残虐かつ動機が異常すぎるので、2人に簡易の精神鑑定が行われた。
桃寿「えっ( ゚∀゚)、精神鑑定!?大喜び(やっぱり分かってねえな)
3時間たっぷり鑑定の結果、桃寿は一応「善悪の判断はできる状態」と分かった。
一方、彼氏はやたら興奮しまくり不安定だったので30分で鑑定は打ち切り、仕切り直しになった。
  

素敵な素敵な夢から醒めて

  

大阪家裁
  
11月20日──、
2人は検察に「刑事処分相当」として送検された。
容疑は「殺人」「殺人未遂」から、「強盗殺人」「強盗殺人未遂」に切り替わった。母親の財布(中身9000円)を持ち去ったのが「強盗」扱いにされて。
  
これは何を意味するかというと、「殺人」の刑期は3年以上(当時。翌年から5年以上に増量)だが、「強盗殺人」になると基本死刑と無期懲役しかない。ぐンと刑が重くなるのだった。
桃寿もまた「殺人予備」に、「強盗殺人」の共同正犯をつけられた。「一緒に死にたい」メールが彼氏の犯行をがっちり支えた、と重く見られたわけだ。

地検「検察官への逆送希望」の意見書つきで大阪家裁に送った。
  
逆送とは「少年扱いせず、検察が刑事裁判に持ち込む」を意味する。
よく誤解されがちだが、未成年は少年法でなにがなんでも守り抜かれるんではなく、悪らつな事件や反省の色なしのばやいは、家裁が「おまえらは大人っぽく裁いてもらえ」と検察官に「逆送」。大人っぽく裁かれる。
さいきんでは宮城県石巻市“男としてダッセー”@18歳が計画的かつ自己チューで悪らつかつ殺しすぎのため「検察へ逆送」、大人っぽく裁かれることになっている。
  
このパターンで実刑になると、大人っぽく裁かれた用の少年院に未成年の間だけいて、成人したら刑務所に移されて残る刑期を過ごすことになる。
(ちなみに極刑のばやいは少年院にも刑務所にも行かず、“その日”まで拘置所で過ごす)  
  
さて、
ゴスロリカップの本格精神鑑定を経た家裁の決定。
医療少年院行きの保護処分」。
  
検察への逆送はナシ精神的にもナニだったしやっぱり子どもっぽくで、と決めたわけだ。
被害者も遺族も家族で「厳罰を求めていない」ことや、大人っぽく刑務所に送ると、自殺や再犯、自傷のおそれがある、と。
  
検察は大不満だったが、高裁に抗告受理の申し立てをしてやり直してもらえるほどでもないので引き下がるしかなくなった。
  
医療少年院入りは、
彼氏は「3年を超える長期間」、
桃寿は「2年程度で、症状が軽くなったら中等少年院行き」となった。
  

ゴスロリバッシング

  
この事件で例によって、ゴスロリは危ない」と悪評が瞬時に巻き起こった。宮崎勤事件のときのようなオタクバッシングの再来をおそれて怯えるゴスロリっ娘たちもいた。
  
ところが、ゴスロリ系ブランド、ゴスロリ系アーティスト、ゴスロリ系評論家は、マスコミの安易なゴスロリ元凶論に反発。一切のコメントを拒否した。
関係者が何も言ってくれなければネタがない、よく分からんゴスロリのことなんてあげつらいようもない。マスコミの「魔女狩り」はしょぼしょぼと終熄した。
  
このときのゴスロリ関係者の態度は、
かのコロンバイン高校乱射事件の原因がゴスだと叩かれたとき、マリリン・マンソンが積極的に正論を

←この顔で言って男を上げたのとくらべると、何かメッセージすべきだったと批判されたり、どうせ日本のマスゴミなんて歪めて報道するだけだし、バッシングも止んだから結果オーライだろうと言われたりしてるが。
  

のち2007年9月京都府京田辺市──、
ゴスロリワンピースの女子高生@16歳が、父親@警察官首を手オノでぶった切る凄い事件が起きた。
「またもやゴスロリか」とざわついたが、
この事件の動機は「親父の浮気への嫌悪」「暴力親父」という生々しいリアル面にあり、ゴスロリは飾りにすぎなかった。
  
とはいえゴスロリが一切まったく無実というつもりもない。
京田辺の少女は死刑執行人のつもりでわざわざゴスロリに着替えて手オノをふるった。「ギロチンにしようと思った」とも話した。
ゴスロリのまとう死と闇のイメージと余計な知識が、少女に一線越えやすくさせたのは確かだからだ。
  
ちなみに京田辺の事件では、むしろひぐらしく頃に」シリーズが元凶とバッシングされた。少女がオノで父親を殺すシーンがあるというんである。おかげでひぐらしく頃に」のTVアニメが放映中止に追い込まれた。のちに無関係と分かるがマスコミは一切謝罪も訂正もしなかった。
さらにこのあと全国で少年少女の親殺しが続けて起こるたびにひぐらし…」が便利に叩かれた。ところが実際の原因は当の……でもこれはまた別の、話。

  

しぶとく落ちない「僕」

  

三島署
  
2005年静岡県伊豆の国市
彼女を逮捕した警察もまた「未知の生き物」に困惑していた。

彼女はしぶとく落ちなかった。
  
取り調べでも事件の話になると黙りこくり、捜査員を「おまえ」呼ばわり、突然笑ったり泣いたり、ネコのしぐさの真似したり、名前を呼ばれても「それは誰?」「もう彼女はいない」と答えたり。痛い子なのか?お巡りさんたちを翻弄した。

未成年だから気をつかうし、警察が握ってるのは状況証拠だけ。ブログやPC日記も「つくり話だ」と言われれば決定的証拠ではないし、彼女の部屋にあったタリウムを母親の頭髪から採取したタリウムと成分比較しているものの、やはり本人の自供が欲しい。
  
警察は化学知識のある女性警官を取り調べに同席させて、なんとか彼女「信頼関係づくり」に努めた。雑談をして化学の話題や元素記号を当てるクイズもしたり(なんと涙ぐましくバカバカしい努力)
化学の話題となると彼女は喜んで饒舌に語りまくった。相変わらず事件のことはのらりくらり。

タリウムは実験のために買ったけれど、母親が勝手に飲んだ」と言い張っていた。

その母親はいまだ意識不明の重体
  

精神鑑定をはさんで翌年3月、警察から検察、検察から家裁へと彼女の扱いは移され、家裁沼津支部少年審判を始めた。だがそこでも彼女「自分はやってない」としぶとく否認し続けていた。
  
付き添う弁護士は危惧していた。彼女は言い逃れができると思っているのか知らないが、このままだと「反省の色なし。更正の可能性低し」として、「けしからん→検察へ逆送→大人っぽく刑事告訴になってしまう可能性が大きい。弁護士には、「僕」とかいってる彼女が、血も涙もない凶悪犯などではなく、「寂しがり屋の普通の少女」にか見えなかった。
  
そんなリミットが近づいていた4月6日午前
彼女父親が、拘置施設を訪ねてきた。
  

クロとシロの間

  
父親との面会が終わった。
そのあと、彼女は考えていたが、付添人の弁護士にぽつりと言った。
  
「僕がやった」
  

それから彼女は弁護士にやっと本心を明かした。なぜ黙っていたのか。

「家族に知られたら居場所がなくなると思った」
「いたずら半分にタリウムを試したら、あんなことになってしまった。自分も苦しくなって」

弁護士が「おかあさんはいま大変なんだよ」と話すと、彼女は泣きそうな顔になった。普通の少女のようだった。
  

次の審判──、
タリウムを与えたのは誰ですか」と促され、
彼女は素直に「僕です」と答えた。
  
弁護士はまた彼女が「もともと人と付き合うのが苦手で、小中学校のときのいじめで人に心を開けなくなった」と、「自閉症に似た発達障害アスペルガー症候群」だったと発表した(またかよ、安易に使い杉だよ)

彼女は初め、発達障害を知られるのも嫌がっていたが、審判では治療を受け入れることに素直に頷いた。
  

2006年5月1日、家裁の決定。
医療少年院送致」。

彼女「分かりました」と答えた。
  
「治療に5年くらいかかるだろう」と関係者は言った。
  
  
彼女を自供へと心変わりさせたのは、面会に来た父親の、
「きちんと治療して、事実をきちんと認めて戻ってきたら、受け入れてあげるよ」
のひと言だった。
  
母親は事件から7か月経っても、いまだ意識不明のままだ。

  
たまたまだが、佐世保ネバダ河内長野ゴスロリカップ、そして伊豆の国彼女も、精神鑑定でクロ判定が出た。
  
しかし精神鑑定を受けたのは彼らが凶悪事件を起こしたからで。その辺にいる子どもたちが精神鑑定を受ける機会は普通まずない。
  
でも、もし仮に未成年全員を鑑定にかけたら、かなりの割合でクロなのではないか。単に一線を越える最後のひと押しがあったかなかったか。シャバにいる“普通”の子どもたちの多くと彼らの差はそこにしかない気がする。

ちなみに小中学生約800人を対象の面接調査で、全体で4.2%、中学1年では10.7%が、鬱か躁鬱病だと“診断”されたという結果が出た。
もちろんその子たちは医者にもかかっていない、周りに病気とは思われていない、でも明らかに病んでいる。はたして“普通”とは何のことやら。
  

彼女たちの「居場所」

  

  
ゴスロリカップ、そして彼女
この3人がしきりと口にするキーワード「家」「居場所」だ。
  
家族への視線は淡白で、ときに冷血でありつつも、なぜかやたら家や自分の居場所にはこだわってるんである。──でも、それはどうやら“普通”(というのも何を指すのやらだが)に思い浮かべる家や居場所とはまた異なってるらしい。
  
桃寿はHP日記に、
「家に人がいない状態が好きなんです」と書いた。
  
桃寿たちの言う「家」「居場所」が、「家庭」かどうかは怪しい。「安心して好き放題(実験、ゴスロリ)できる物理的な住宅と、親という名の資金源」でしかないかもしれない。
  

どうも彼らにいじわるな書き方しかできないのは、
そんな成長してないガキのムシのよさが透けて見えるからだ。
  
そのへん治療で少しは変わるんだろうか。
  

ところで、
彼女が崇拝して真似たグレアム・ヤングは出所後さらに罪を重ねた。すべてを模倣してきた彼女が、せめてそこは真似しないことを祈る。
  

彼らは中流家庭の子どもで、家庭的にも経済的にも学歴的にもかなり恵まれていた。
  
でも何かが足りなくて満たされない感が強くて、だから絶望したかったけれど、自分たちの中に「絶望」的なものを見つけられなくて、
よさげな絶望をどこかから借りてきた。
ぜいたく病のような「なんちゃって絶望」をまとった。
そして窒息して溺れた。
  

でも、格差社会はこれからさらに進んでいく。
  
もうすぐ、本物の絶望を抱えた子どもたちがやって来る。
  
  
(終)
  
準備中>【事件激情】「その男、K。」