県警対14歳 Vol.3【酒鬼薔薇聖斗事件】
以下、この色の人名*はすべて仮名である。
警察を含む登場人物の会話・思考の多くは創作である。
ただし、事件に関わる行動や事実関係は公開された記録にもとづく。
1997年 5月25日
日曜日
──2日目 午後
酒鬼薔薇聖斗は
タンク山の行き慣れた獣道をずんずん行く。捜索隊とは反対の北須磨高校の方へと。
タンク山というのは小さな丘に見えて目印になるものが何もなくただただ無秩序に木々が生い茂ってるばかり。タンク付近のほかは獣道くらいしかないんで、大人でも迷ってしまいそうだ。
でも酒鬼薔薇にとっては自分の庭のようなもの。何人で来ようと捕まるものか。
さっき警察犬が吠えてたな。
あれを嗅ぎつけたのか。犬はやっぱり鼻がええんや。
なのに人間の警官は気づかず帰ってしまった。あいつら犬より頭悪いんや。
ふとサスケを思い出す。
さっき糸ノコを使ったとき、指に伝わってきた感触も思い出す。
昨日よりずっとよかった。
あのときはやるべきことをやるのに精一杯で、せっかくの感覚をゆっくり味わう間もなかったから。
今日の方がずっと満足感というか素晴らしい気分を味わえた。
ちなみに酒鬼薔薇はずっと「糸ノコ」と最後の最後まで間違えてるんだが、実際は「金ノコ」なんである。
でないと、南京錠を切れないわけだし。
でも失敗したのは、口の中にまだ残る味。
…鉄臭っさ。
金属なめたようや。
いい考えと思ったんやけど。やめときゃよかった。正直うがいしたい。
手にはずっしり重くなった黒いビニール袋。
ふうん、意外と重いんやな。
さて、これ、どないしよか。硬くなっとったから記念品もとれへんかったし、といってこのまま家に持ち帰っても置くとこないしな。
もう一度じっくり眺めてみたいのもあるし。
うん、やっぱりあそこや。あそこなら人も来ない。
そうと決まれば急げや。酒鬼薔薇は黒ビニール袋を手に生い茂る葉をかき分けながら市道へと下りていく。
もちろん友が丘一帯は淳くん捜索の真っ最中で、大勢の人々が行ったり来たりしてる。
ちょうどタンク山南側の市道も、
多井畑小学校の女教師が歩いていた。
【続きを読む】