【事件激情】狭山事件と「となりのトトロ」──検証編

noriaky1112010-03-17



事件編からの続き。

全世界の総読者約4人くらいを誇るこのブログに辿り着いたあなた。もしあなたが「トトロ死神」説「トトロは狭山事件へのオマージュ」説を信じている人なら、引き返した方がよかろうて。たぶんあなたには異常に腹立つことしか書いてないだろうからの。


さてなぜ狭山事件はトトロの裏設定と言われるのか?「両者の符合することが余りにも多い」のだという。ネットをば漁ってその「符合」をくらべると…。



狭山事件=埼玉県狭山市
・トトロの舞台=埼玉県所沢市(のあたり)

狭山事件=5月1日に起きた
・トトロ=姉妹の名「サツキ」と「メイ」ともに5月を表す

狭山事件=被害者は16歳
・トトロ=サツキ12歳とメイ4歳の年齢を足すと16歳

狭山事件=母親は病死で不在
・トトロ=母親は遠隔地に長期入院で不在

狭山事件=狭山丘陵には末期や精神病の病棟がある「八国山病院」
・トトロ=母親の入院先は「七国山病院」

狭山事件=失踪後、姉は必死に妹を探しまわった
・トトロ=姉サツキは行方が分からなくなった妹メイを探しまわった

狭山事件=死体発見後、姉が「猫のお化けを見た。でかい狸に会った」と錯乱
・トトロ=姉妹はネコバスとトトロに出会う


とまあこんな感じ。


さらに、
宮崎駿左翼だから狭山事件にも思いがあって裏設定をつくった。
ジブリが公式サイトで「狭山事件とは無関係」と発表した日は事件と同じ5月1日。
狭山事件では幼い少女16分割されて惨殺された。


なんてのもある。


続いて「サツキとメイは幽霊」説の根拠はどうやら↓こんな感じ。


・途中から姉妹の影がなくなる。
・湖に浮かぶサンダル。サツキ「メイのじゃない」とひきつった顔で言い村の婆さんを安心させるが、妹の死を悟っている。
・母親の病院に行くがとうもろこしだけ置き、会わずに帰る。姉妹が幽霊である証拠。
・母親のセリフ「今そこでサツキとメイが笑っていた気がする」。生者に対する言葉ではない。だから2人はすでに幽霊。
・ハッピーエンドに見えるエンディングだが、姿が若いので、過去(姉妹の生前)の光景である。
となりのトトロにはサツキとメイが地獄めぐりをする「隣のトトロ」という原作があった。


これら根拠は本当なのかどうか。


*2つのサンダルの謎は? 姉妹の影がない本当の訳は?


しゃて、
当然ながらワ士なんぞよりもずっと狭山事件に精通しまくっている狭山フリークという方々はたくさんいて、この都市伝説に「ふざけたこと言うなっ」と憤り、こまごまと反証している。
あ、ちなみにワ士も及ばずながらトトロ都市伝説不信心派である(否定派ではないが不信心なのだ)。


ひとつひとつ書くとキリがないのでまあテキトーだが、


トトロは60分の中編として最初は少女1人の設定で制作が始まった。同時上映の「火垂るの墓」の尺が都合で90分に延びたため、60分の中編のはずだったトトロも同じく引き延ばさなければならず、苦肉の策で姉妹に水増しした。しかも当初サツキの設定は10歳だった。足しても残念ながら16歳にならんのである。大体なんで足すのだ。ピラミッドの高さ×109は太陽と地球の距離だ説なぜ109をかけるとおんなじではないか。
狭山事件では次姉トミエは父親とともに泣いてばかりで妹の探索に積極的に参加した記録はない。
「大きな猫を見た」はまったく別の殺人事件での少女の証言としてその筋で知られている(たぶんそれを流用アレンジしたのだろう)。
トトロに原作はなく宮崎駿の中編向け企画だった。一方のちの「もののけ姫」には宮崎駿の原案があって、これは完成版とはまったく違うまんが日本昔ばなし市原悦子風の話で、イメードボードが絵本化もされた大儲け。「原作がある」説はこのへんと混同したのではないか。


そして幽霊説の最も大きな根拠その1の「メイのサンダルと湖に浮いていたサンダル」だが、あれは「同じサンダルだ」「いや違うサンダル」「サツキは妹が死んだと思ってない。心配なだけだ」「いや死んだと悟った悲しい顔だ」と、同じものを見てるはずなのに対立しててラチがあかない。
ただ一応形が紛らわしいがよい画質でよく見るとメイのサンダル池のサンダルは足の甲の部分が二の字とX字っつう微妙に別のタイプで、しかも再会後のメイはしっかり両足にサンダルを履いている、とだけ書いておく。これが原画担当のミスなら笑いを失うがつまり失笑だが。
根拠その2の「姉妹に影がない」だがそれについては製作サイドが「単に予算と時間の関係で影の絵を省略した」と夢も希望もないことを語っている。そして姉妹だけでなくワンコにも影がないんである。そっかワンコも幽霊なんだな。
病院に行った姉妹が母親に会わないのは、単にサツキがもののけの力を借りて安易に願いをかなえるトムや〜ズルはいかんぞ〜を我慢して、ちょっとだけ大人になったからと思ってみればいいではないか。
さらにエンディングでは、ちゃんと村の婆さんと姉妹の涙の再会も描かれているし、田植えの時期(5月)にやってきた冒頭から、梅雨、夏と季節が過ぎ、終盤で秋の「稲刈り」が描かれるのは時間の流れもまあまあ自然だし、弟か妹ができた描写もある(それでも赤ちゃんと一緒にいる姉妹を幽霊だと言い張る人はもう知らん。どうかどっかでお幸せに)。


とまあ、こんなんよりもっと細かく狭山フリークはひとつひとつ、狭山事件に関係ないとこまでご苦労さまにも潰していくのだが、それでも「いや、絶対に怪しい」と裏設定派は一歩も譲らない。
「だってこんな事実があるから」と、裏設定派が熱く証拠として出してくるのは大抵どこかの個人サイトやブログだ。狭山フリークは「いや、それは記録じゃなくて噂を見て書いたもんだから裏付けもないだろう。ネットが出典じゃないちゃんとした出典を出せ」と呆れるが、もちろん、裏設定派は「いや、ジブリとマスコミは嘘をついてる。いやでもだって」と話は永遠に平行線。そもそもこの手の論争が論争にならないのは永遠不滅だ。
しまいには、「もう付き合い切れん。勝手に怪しい怪しい喜んでろ!」と匙を投げてしまう始末。


*もちろん平行線の否定派と裏設定信者


ん?これはどこかでデジャヴーだぞ。そう、懇切丁寧に理性的に反証していく否定派と、そして「いやそれでも怪しい、すべて嘘、見ればほらここに証拠が」とただ熱く繰り返すほぼカルト信者。これではまったく論争にもなりゃしない。おお、そうそう、まるで911陰謀論者と否定論者の対決のようではないか。

にしてもネットっつうのは、個人が思いつきでひょいとアップしてしまったことだって、複製増殖されて連想ゲームされてくうちに「真実」として扱われてしまうことがあるわけで。どころかマスゴミは真実を隠している」と斜にかまえる一方、ネットに個人単位で書いてある話の方はなんの疑問もなく信じてしまう風潮は相変わらずで。それを否定されればされるほど「いやでもだって」「だからこそいよいよ本当」とさらに信仰は強まる仕組みなんである。


で、狭山事件とトトロだが、少なくとも裏設定信者の「証拠」はじつにいい加減である。
たとえば「幼い少女が16分割」だが、これはおそらく月姫なるゲームに出てくる「ナイフで17分割」が元ネタだろう。まして16歳は「幼い少女」とはいえない。たぶんできるだけアングラな雰囲気を出そうと、さいきんの幼女殺しと兄が妹をバラバラにした事件と月姫が混ぜ合わされたのではないか。
またモデルと主張される「八国山病院」なるものは存在しない。あったのは東村山市の八国山をのぞむ保生園という結核患者向けの療養所で、今そこは新山手病院という総合病院になっている。
なかには津山事件*1。と混同してる人もいてそりゃ津山と狭山で名前は似てるけどさ、である。
また狭山事件が人権や差別もからむ微妙さからあまり詳細が知られず、都市伝説のターゲットになりやすかった、というのもありそうなんであるな。


にしても、トトロと狭山事件、そもそも舞台となる場所が近い以外に、似てるとこがまるでないではないか。
場所が近いだけでオマージュなら、クレヨンしんちゃん頭文字Dがんばれタブチくん狭山事件のオマージュだ。


ワ士は決して都市伝説否定論者じゃないので否定はせぬ、ただ都市伝説不信心者なので信仰まではせぬであるんである。
だから2ちゃんねるとこらへんであえて斜め下からうがって面白がってるのはべつに構わんしけしからんな向きもあろうがそんなことまで咎めるのは野暮で無粋ってのは分かってる、
が、
数寄者の枠を超えたところで、よく分かってないネットリテラシーに乏しげな人が「これは偶然とは思えないっ」と本気と書いてマジと読むと力んだり、まして「怖くてもう見れない」「子供が怖がっている」などとガタブルしてどうするというのだ、である。


第一、あのジャリ向けの「千と千尋の神隠し」について、訊かれもしないのに自ら「小学生の少女が性風俗産業で働かされる話なんです」と堂々と広言(本人が思い切り断言したのに慌てたマスコミは無反応)した、あの宮崎駿がだよ、そんな裏設定があるなら言わないはずがないではないか。


おっとちなみに、ようやく本題の狭山事件に戻ると、
無期懲役が確定したカズオこと石川一雄氏は、逮捕からじつに31年半ぶり1994年に仮釈放となった。70歳のおじいさんになった今もなお無実を訴えて第3次再審請求中である。2009年12/16、東京高裁が検察に証拠開示勧告し、なにか今までと違う展開がのちのちある──かもしれない。


ただしすでに時効ゆえ、もし再審で石川氏が無罪となっても改めて真犯人が捜索されることはない。いずれ真実は闇の向こう、である。


そしてまた今宵もどこかの星の下で、トトロ裏設定をまことしやかに語っている誰かもいる。


■関連サイト
事件史探求 狭山事件/事件の概要がざっと手短につかめる。
狭山事件を検証する/異常なまでにあらゆる情報が詳しい。
毎日新聞 昭和のニュース「狭山事件」/さすが写真豊富。
事件「となりのトトロ」と狭山事件/都市伝説を絶賛全否定中。
「となりのトトロ」の舞台はいつ?狭山事件も幽霊も関係ないが、トトロの時系列について面白い考察をしている。

*1:津山事件 昭和13年岡山県津山市の山村で起きた、2時間で30人殺害のスプリーキラー事件。「八つ墓村」のモデルとなった(こっちは噂でなく本当に)