【事件激情】狭山事件と「となりのトトロ」──事件編

noriaky1112010-03-16


狭山事件が起きたのはじつに半世紀近く前。再審請求などでまだ係争は続いてるんだが、今は知る人も少なくなり…と思ってたら、あまりにも意表をつく斜め45度の角度からふたたびスポットが当てられることになった。となりのトトロ」の“モデル”というふれこみで。


*あまりにも謎を多く孕んだ怪事件


さて、とにかくその狭山事件だ。この誘拐殺人は昭和38年(1963年)、埼玉県狭山市の農家が点在する集落で起きた。

こちらのサイトに写真がたくさん載ってるから当時の田園ぶりがなんとなく分かるだろう。


5月1日、区長N家の娘で女子高生のヨシエ16歳は、下校したはずが夜7時近くになっても帰宅しなかった。7時40分、自宅に身代金20万円を要求する脅迫状が届いて集落は騒然となる。
次姉トミエ23歳が身代金受渡し役となり、犯人に指定された5月2日深夜0時に酒屋前で待機。暗がりのなか、犯人らしい男がやってくるが、二言三言交わしただけですぐ犯人逃走。取り囲んでいたはずの警察はあえなく犯人を取り逃がしてしまい、まもなく畑に埋められたヨシエの死体が発見される。
1か月前に起きた吉展ちゃん事件に続くまたしても警察の大失態で、警察庁長官引責辞任。汚名返上のためにも警察は是が非でも犯人を逮捕しなければならなくなった。捜査の結果、近くの養豚場の元従業員カズオがヨシエ殺しで逮捕され犯行を自供。最高裁まで争って無期懲役が確定する。

なんていうような単純な事件ではなくこの殺人事件にはとても裏やら謎やらが多いんである。
ところで、世に「下山病」というのがある。かの下山事件*1の謎解きにとり憑かれて一生を捧げてる状態をいうんだが、この事件もまたその種の謎また謎の深淵の面妖さをむんむんに漂わせている。


*証拠ねつ造? 被害者は誰を待っていた?


まずカズオ逮捕の根拠だが、証拠の自宅の鴨居から見つかった万年筆、そして“自供”で出たカバンは警察のねつ造である線が濃厚。さらにカズオの自供内容によると、農作業中の人がすぐ近くにいる場所で強姦殺人を派手にやってのけたことになるなど矛盾も多すぎて、「冤罪」と言われるのも無理はない穴だらけぶりだ。だがそれでも起訴されたら有罪になってしまうのがまあ我が国の流石な裁判ならではである。

さらに、当日は誕生日だったヨシエ16歳が、下校後、雨のなか線路下のガードで人待ち顔風だった(それも第1ガード、第2ガードとなぜか10分程度で移動している)のを見られていることや、さらに外れたおかしな道で同級生に目撃(4時頃。これが生きている彼女の最後の目撃)されていること。

そして死体は縛られうつ伏せでなぜか後頭部に石を乗せられるという不思議な埋められ方で、性交の跡があったが、これが強姦なのか和姦なのか、処女か非処女だったかもはっきりしないこと。

唯一の犯人の遺留品の脅迫状は、「刑札」「気んじょ」「死出死まう」とか一見無学のものが書いたように誤字が多いが、じつは学のある人間がわざと装って書いたような書き方であること。なのに“犯人”カズオは当時ひらがなを書くのがやっとのほとんど文盲に近かったこと。

またごくわずかの時間(10分間)に脅迫状が玄関に置かれ、被害者ヨシエの自転車も誰かの手で戻されていたこと。証人となった人物が妙にころころと変わる情報をマスコミにしゃべりまくったり。


*相次ぐ自殺と怪死


そして事件をさらに奇怪にしたのが、関係者の自殺者・変死があまりにも連鎖したことだ。
まず、死体発見数日後にN家の元作男31歳が井戸に飛び込んで自殺。不審な男を目撃したと証言した近所の農夫31歳が自宅で心臓を胸に突き立てて変死。さらに翌年、被害者の次姉トミエが農薬を飲んで自殺。3年後には養豚場経営者の兄が轢死。14年後には次兄キヨジがなぜか女言葉の遺書を残して首吊り。
八つ墓村ならぬ五つ墓村」とマスコミは書き立てた。


逮捕されたカズオが被差別部落出身者だったことから、部落解放同盟が「差別裁判」「狭山闘争」として支援に乗り出し、さらに新左翼も加わって事件はさらに複雑になった。

それこそ多種多様な「真犯人」も唱えられた。長兄犯人説、警察やらせ説、黒幕説、単独犯説、複数犯説、オズワルド的身代わり説、財産狙い説、怨恨説、色恋のもつれ説、一家への恨み説、家族抗争説、土地開発がらみの陰謀説…、とにかく多い。

とまあ、狭山病にかからない程度にまとめてみた。でも充分長いが。


*いやな噂──「となりのトトロ」は狭山事件がモデル?


さて、再審請求中ではあるが世上から忘れかけられていたこの事件の名が、近年になっていきなりネットに頻繁に現われるようになったのは、2006年中頃からだ。

となりのトトロ」は狭山事件へのオマージュだ。

そんな不気味な噂がものすごい勢いで広まり出した。これは「サツキとメイの姉妹は映画の途中で死んで幽霊になっている」という都市伝説とセットで語られ始めたらしい。

あげくはスタジオジブリにまで、あの噂は本当かと問い合わせる人も出て(問い合わせてどうするんだ)、ついにジブリが公式サイトで狭山事件はモデルじゃないし、姉妹は死んでない」と噂を全否定する大事になった。
それでもこの噂を支持する人(つまりは信者)は今なおとても多い。すごく多い。「トトロ 狭山事件」でググってみればそのヒット数の莫大さに驚くだろう。
たしかに「となりのトトロ」は奇妙なアニメだ。無邪気な子供向けのはずなのに、なぜか暗く陰のイメージがある。そして不可解かつ思わせぶりな演出も多い。だからこういう都市伝説がまとわりつく隙もあるんだが…。

では一体、どこいらへんからトトロの裏設定が狭山事件といわれるようになったのか?


(まだまだ続くので検証編へと続く也)

*1:下山事件 昭和22年、下山国鉄総裁が失踪し、礫死体で発見された事件。他殺説、自殺説、陰謀説などが飛び交ったが、迷宮入り。