【事件激情】東電OL殺人事件

noriaky1112010-03-14



しゃて、

アメリカで1947年に起きた未解決殺人に、

「ブラックダリア事件」

っつうのがある。ちなみに「LAコンフィ以下略」のマイフェイバリット作家ジェームズ・エルロイが事件をもとに本を書き、ブライアン・デ・パルマがなんだか微妙な映画化もした。
その謎の多さ、猟奇っぷり、被害者がうら若き美女、結局は迷宮入りってところが刺激的で、いまなお語り継がれてる有名事件。 そしてワ士はうっかり当時の美女まっ二つ写真と、ジョーカーもしくは垣原状態にされた死に顔写真をネットで見てしまってうひゃあってかんじの事件。


でも、日本にもそういうのがあったんだな、とやっと気づいた。

東電OL殺人事件。

今さら何いってんだ10周くらい周回遅れだぞ、ではあるが。


この事件があったのは平成9年(1997年)。そんとき報道は過熱してたらしいがワ士は「ふーん」とスルーしていた。たぶん被害者が39歳、という一点が、それよりグッと年下だったワ士の琴線にふれなかったからだろうが。

今回ワ士、そのへんの本やら記事やらをぱらぱらと眺めて、東電が東京電力のことだと初めて知ったしバカである。東京電鉄って会社だとなぜか思いこんでた。なんだ東京電鉄って。


あの頃は、
「エリート女性が夜は売春していて、んで殺された」
くらいしか知らんかったのう。 が、10年以上も経って、やっと遅まきながら興味をひかれたワ士である。
というかなんであんときあんなに世間が騒いだのか気になった。
この事件、ネパール人容疑者の冤罪疑惑もあるらしいが、まあ彼には悪いがはっきりいってそっちに興味はあまりない。


いやー、しかし想像よりすごかった脳、この東電OL39歳。


*1997年3月19日午後5時 東京都渋谷区円山町


彼女の絞殺死体が見つかったのは、渋谷道玄坂どん詰まりにあるラブホ街・円山町神泉駅近くの木造アパート「喜寿荘」の空き室。
周りは再開発も及んでいない狭い道と古ぼけた民家やらこぶりな中古ビルやらがごちゃついている、まあ東電のエリート様にはあまり似つかわしくない風情なんである。
謎──なぜエリート女性がこんな場所で殺されたのか。いやそもそもなんでこんな処に来たのか。
だが捜査と報道が進むにつれ、彼女が二つの顔を持っていたことが分かってくる。


昼は高学歴エリート社員の顔、
夜は立ちん坊の売春婦の顔。


色町ではありきたりな娼婦殺しそのものよりも、外国人をめぐる冤罪疑惑よりも、被害者の特異きわまるプロフィールがこの事件を犯罪史上に残る怪事件にした。


んではどういう特異さだったかというと。

まず彼女はエリザベス・ショートのようなうら若き美女ではなく、39歳独身で、顔は。。うーんと。。というところが妙にリアル。リアルっつうか本物なんだが。いやそういやブラックダリアも本物だが。


とりあえずエリートであることに疑問の余地はない。KO義塾の「あとちょっとで金時計」卒だし、東電だし、当時始まった間もなかった総合職採用だし、エコノミスト部門だし、初にして唯一の女性の管理職だし(課長代理くらい?)。
そんな彼女が、毎日夕方に会社を終えて、帰宅すんのかと思いきや帰らないで、渋谷の109のトイレで娼婦仕様に着替え、道玄坂どん詰まりのラブホ街・円山町で立ちんぼうをしていたのだ。毎夜4人客をとるのをノルマにして、終電で帰宅。以降そのくり返し。

金に困っていたかというとなにしろ東京電鉄だから年収は大量。いわば売春は内職というより「趣味」。格安5000円とか2000円で客をとったこともあり。でもそのわりに金には1円単位まで執着して落ちてるものはなんでも拾う習性がある。ビンを拾い集めて酒屋で売ったりもする。
と思えば、そのへんの路上で立ちションし、行きつけのセボンイレボンでなぜか「1つの器に具を1個だけ入れ汁をどばどば入れ、それを5つぐらいテイクアウト」とかよくわからない行動をし、商売に使ってたラブホではベッドに放尿して出入り禁止(でも無視して使い続ける)。
拒食症らしく痩せ細り、しかもセックスは好きではないらしいのに毎晩週末も町に立ち続け、渋谷の若いもんからはガリガリの厚塗りのおばはん」と気味悪がられ、それもかまわず「ねえ、遊びませーん、誰か遊びませーん」と客引きをしまくる。
最後には、勝手に“淫行部屋”使ってた古アパートのほこりだらけの空室にて死体で発見


ある意味ブラックダリアよりすげえんである。


当時、東電OLの本を読んで働く女性たちが、
「これはわたしよ!」
と矢も楯もたまらず、現地を巡礼し、彼女がよく立ちん坊してた地蔵に泰子地蔵*1と勝手に名付けてルージュを塗るような現象まで起きたそうな。へーえ。


*「骨と皮だけのような体だった」


当人が死んじまった以上、
「なんであんなワケワカなことしてたんですか?」
と確認なんて誰もできんし、後づけの理屈しかつけられない。
敬愛する父の死とか、家族との確執とか、出世競争での挫折とか、人間関係のなんちゃらとか、働く女性の壁とか、どれももっともらしいものの、なんかそんなきれいにまとまるんか?てなかんじだし。
堕ちておきながら、1日4人とノルマを決めてきっちり守り、その日の客と値段をていねいにメモして記録していたり、売春での儲け約1億円も一切使わずただ預金してただけだったり、なんか行動のわりに妙なところで几帳面なのも不可思議なところ。
なにしろ2000円でも寝るので、いろんな客がいたようだが、彼女のファザコンのなせるわざか年上の壮年熟年老年が多く、なかには、インテリゲンチャである彼女に対して「疑似恋愛」していた常連の大学教授なんてのもいたようだ。彼などはわざわざ墓を突き止めて墓参に行っている。まあ哀しいながら彼女にとっては客の一人でしかなかったようだが。
あとは“犯人”のネパール人のような出稼ぎガイジンたち。金のない彼らには5000円とかでOKの娼婦はありがたやの性のはけ口になっただろう。しかしそのネパール人たちにすら「もうこんなことやめようしょんぼり」と言わしめたらしい。 性に飢えてる男たちにさえそう思わせてしまう不毛な瘴気が、拒食症で痩せ細り、年相応にいやそれ以上に衰えた肉体にただよってたのか脳。


なんというか当時の例によって人権踏みにじる的な報道合戦でつくられた奔放淫乱そうで爛れた魔女的イメージとは裏腹に、彼女の肉欲系もしょぼい、というかほとんどそれらしきものがなかったようだし。そして売春を始めた30代初めは高級そうなクラブで働いてたのが、ホテトルになり、さらに立ちんぼうになり、と、夜の女として年齢に正比例して格落ちしていったのがまた。。かなーり寂寥感が漂う。


*家族も会社も公認?の“夜の顔”


有能なエリート女性、と報道されてたけど、彼女の出向先で働いていた元バイトの証言によると、
「有能というふれこみだったけど、組織での人間関係がまったくダメで、勉強はできたかもしれないけど、正直いって使えない人だった」
バイトちゃんにくさされてしまうトホホさ。この妙に生っぽいカッコ悪さは、簡単には割り切れん人って難しい脳をかんじるし。
どうも先のバイトちゃんの言うとおり、ガリ勉、でもただそれだけ」っつうのが、サラリーマンとしての彼女をいちばん的確に表す言葉だったかもしれない。バイト鋭い。

朝から夕方まで会社、そして終電まで裏稼業、それをウィークデーは欠かさず。そして土曜はホテトル嬢として出勤、それが終わるとまた終電まで立ちん坊。こんなんまともに仕事できるはずがない。職場と売春以外なにもないんじゃあ人としても破壊されていく。

なにより凄いのは、彼女の家族も東電も、その「夜の仕事」を知っていたらしいってこと。

だから死後じつに迅速に箝口令が敷かれ、弔いも東電にガードされながら素早く終えてしまった。
あれだけ情報が溢れながら、いちばん近くにいたはずの家族や上司・同僚の声はほとんどない。証言のバイトちゃんってのも東電ではなく、彼女が3年ほど出向(どうやらその時期左遷?)していたシンクタンクのバイトちゃんだ。

だから余計に実像が見えず、衆盲象を模すになる。


*誰もが彼女を分析しようとする


やはりみんな分析したくなるんだろう、この人を。
しかしやはりその誰もがちがう気がする。


その後、女性作家がこれをモデルにして書いた奇怪とか醜怪とかいう小説もなんか作者が自分の言いたいこと言わせるためにもっともらしい女性な意味を与えられすぎて逆に違うかんじだし。ラジカルフェミニストの先生も分析してたようだが、なんとなくその目線からみても微妙に違うような。。
また精神科医による説の 「父親を尊敬するあまり父親の死でインナーマザーができて自分を貶めて罰する行為」なんつーのもあるんだが、それはそれでまあ一番つじつまは合ってるんだが、なんだかきれいにまとまりすぎて、そうやって枠にはめた瞬間に嘘っぽくなる。
彼女に拒否される感じというか。


混沌に七穴を穿つ、混沌七日にして死すである。


まあそんなぐらいミステリアースな東電OL。結局、ちゃんと秩序立ったもっともらしい書籍とか評論じゃなくて、ごった煮羅列的で秩序も統一感もないネットこそ扱うのにふさわしいんではないか。


彼女は、裁判で有罪とされたネパール人かどうかはともかく最後の客に殺され、その摩訶不思議なる堕落は、完全に堕ち切る寸前でぶつんと終わった。
だが殺されないままその二重生活が続けられたら、その後、どうなってただろうか。精神と肉体がいっちゃって病院送りになってたか、横浜どころか全国各地の駅にいるメリーさんのようになったのか。
と妄想。


事件から12年。
日本の情操観念もずいぶんと変わった。それこそ売春は出会い系経由でこそっと済ましたりとか。そこに罪悪感も堕ち感もない。むしろ彼女のような夜鷹的やり方はもはや古風になった。我が地元、名駅西口で客引きのゴッドマザーだったばあさんも引退したし。


ところで、なんと現場の古アパート、いまだに健在である。
やはり今も働く女性が巡礼したくなるのか脳。

*1:悲壮な物語のわりにはこの泰子地蔵、やや間の抜けたおもろい顔をしているのがまたアンバランス